「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」の版間の差分

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お使いに来た大星由良之助の息子[[大石主税|力弥]]を[[加古川本蔵|加古川]]さんちの娘[[小浪]]がむかえて恥じらいの接待。若いカップルの仲良しぶりがここで出てくる(力弥使者)。
 
お使いに来た大星由良之助の息子[[大石主税|力弥]]を[[加古川本蔵|加古川]]さんちの娘[[小浪]]がむかえて恥じらいの接待。若いカップルの仲良しぶりがここで出てくる(力弥使者)。
  
そして殿様の桃井君が側近の[[加古川本蔵|加古川さん]]に「おれ、あいつヤルから」と高師直をやっちゃうことを告白する(松切り)。「力弥使者」のほうは平成20年中村座に於いて三十ウン年ぶりに公開された。DVD未収録。
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そして殿様の桃井君が側近の[[加古川本蔵|加古川さん]]に「おれ、あいつヤルから」と高師直をやっちゃうことを告白する(松切り…本蔵が松ヤニで殿様のカタナを抜けないようにするからそういう通称に)
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「力弥使者」のほうは平成20年中村座に於いて三十ウン年ぶりに公開された。DVD未収録。
  
  

2010年10月29日 (金) 22:40時点における版

作品概要
制作会社 松竹
公開年度 1977年
内蔵助役 松本白鴎ほか
評価 5ツ星
役者絵:中村橋之助
役者絵:坂東玉三郎
役者絵:中村歌右衛門

この項では寛延元年(1748年)に初演された人形浄瑠璃のほうより、それを原作とした歌舞伎についてをメインに記述いたします。

レビューのサイトなのでストーリーにはそんなに詳しく触れておりません。


言わずと知れた、赤穂事件を芝居にした名作フィクション。

「江戸時代当時の大人の事情」で、ストーリー的には赤穂事件だがオリジナルエピソードがほとんどで、時代設定やキャラクターの名前も全部変えてある。主役の名前は大星由良之助

絢爛だけど、すさまじく、ところどころカワイイという実に不思議なエンターテインメント。

フランチャイズなので、関東と関西では演出がじゃっかん違ったりする。(様式美の江戸。写実的な上方)


以下の説明は、DVDやCS放送の歌舞伎チャンネルの放送、そしてもろもろのライブ鑑賞を元に構成しております。

ちなみに市販のDVDには9話ぶんのエピソードだけとびとびに収録されていて完全ではありません。それでも全部見ると10時間くらいになる。歌舞伎の興業では通しで上演されることは珍しく、たいがいどれかの段が単品で上演される。二段目、十段目、十一段などの上演がまれ。



口上人形

裃姿の人形が首を回してエヘンエヘン言いながら主演者の説明をする。わりと悲劇が続く仮名手本なのにめちゃめちゃ愉快。元が人形浄瑠璃だった名残(ちなみに文楽では口上は人間がやる。)。

こういう「強弱」が仮名手本忠臣蔵はちょいちょい出てくるが、なんというか、かわいいセンスがすごい。五段目のイノシシとか八段目の遠くの嫁入り行列とか、急に柔和なキモチになります。魅力のひとつでしょうなあ。DVD未収録。


大序(だいじょ)

「鶴ヶ岡八幡宮の場」。

鶴岡八幡宮のリフォームを祝ってのイベント中、偉いじいさん高師直(こうのもろなお)と接待係の桃井君がヘンな空気になる。最初は、いじめられるのがあとで刃傷を起こす塩冶判官ではないという、興味深いアレンジ。

「プロローグ!」てかんじでパーッときれいなビジュアルが印象的。幕が開くとおばさんのお客さんが「ふぁ〜」と喜ぶ。

文楽版(がオリジナル)を見たら舞台構成がまったく同じなのでおもしろかった。歌舞伎はオリジナルを意識してか、最初は動かない演者がだんだん人形に魂が入っていくように徐々に動き出すという、ワクワクする演出(人形ぶり?)。今で言えば、漫画が実写になったイメージ。


二段目 

「桃井館の場」。

お使いに来た大星由良之助の息子力弥加古川さんちの娘小浪がむかえて恥じらいの接待。若いカップルの仲良しぶりがここで出てくる(力弥使者)。

そして殿様の桃井君が側近の加古川さんに「おれ、あいつヤルから」と高師直をやっちゃうことを告白する(松切り…本蔵が松ヤニで殿様のカタナを抜けないようにするからそういう通称に)。

「力弥使者」のほうは平成20年中村座に於いて三十ウン年ぶりに公開された。DVD未収録。


三段目 

「足利館の場 同殿中の場」

加古川さんが桃井君に内緒で高師直に詫びを入れて仲を取り持つ(進物の場)。高師直はいじめの矛先を塩冶判官に変える。松の廊下で喧嘩〜刃傷(喧嘩場)。DVDの尾上梅幸と尾上松禄のケンカはオーバーアクションであるにも関わらず刃傷までのイライラの高ぶり、持っていきようが見事。

DVDにも未収録の「裏門合点」を見ておりません。上方落語「質屋芝居」に登場するがビジュアルが思い浮かばない。


道行旅路の花聟 

「落人」。もともとスピン・オフだったらしいが、ここら辺に入れられて上演されるそうです。DVDではこれのあとに五段目になるのでわかりやすいパッケージ。前半は日舞。早野勘平お軽の実家に居候するキッカケのエピソードで、華やかな舞台美術。

高師直の家来、鷺坂伴内が大きく(間抜けに)扱われている。


四段目

「塩谷館の場」。

判官切腹。慣用句?として使われる「おそかりし、ゆらのすけ〜!」って実際セリフにあるのかと思ったら実際は「由良之助か、待ちかねたわやい〜」だった。「通さん場」といって劇場のお客さんの出入りが許されない大事な段。

さて、ビギナーにはとっつきにくい歌舞伎の所作には実は玄人も実はよくわかってないこともおありだそうで、たとえばこの切腹の場にやっと到着した由良之助が検使役・石堂右馬之丞に「近う近う〜」と言われて花道で一回両手を懐に入れる仕草について、落語の「四段目」(出典:志ん朝版)では「ひょいっと顔を上げてみるってえと、もうお殿様はお腹を召してるから"しまった〜"と思っても、ここでもってあわてちゃあいけないと思うから両方の手をこうやってフトコロへ突っ込んで腹帯をキュウッと締め直す。」と説明しているが、市村羽左衛門(17th)がある番組で言うには「なんでああいう仕草をするんだか九代目からおじさん達が聞いてないんですよ。演出の意図がハッキリしていないから、あれは腹帯のことだろうと思うが、締め直すんだかゆるめるんだかはおまえ達の解釈でやれと言われ、あたしはゆるめてます。あすこで締め直す由良之助じゃ仇は取れない。」だそうです。


鳥本宿 蜂の巣の場

北陸のほうで出張中の寺岡平右衛門が居酒屋で一杯やってると、百姓たちが蜂の大合戦を見て騒いでるのを居合わせた坊さんが「こういう稀代は京か鎌倉の諸侯方に凶事があるのでは?」と不吉なことを言う。平右衛門は鎌倉の殿様のところへ走る。

検索しても出てこないようなマイナーな場で、この記述は昔の脚本を参考にしました。

なんとなく七段目との因果関係が成立してて、あればあったで気持ちのいいエピソードでございます。


五段目 

「山崎街道、鉄砲渡しの場」。通称:「二つ玉の場」

お家の大事にデートで駆けつけられなかった塩冶判官の家来、早野勘平カノジョの実家で狩人生活。イノシシと間違えてを誤射する。うたれて死ぬのは強盗の定九郎

あたしはそもそも落語の「中村仲蔵」において初代仲蔵(歌舞伎役者)の苦心の工夫の末、生まれた「定九郎像」がどんなだろうと興味を持って仮名手本忠臣蔵を見たがったのが、思えばコレが忠臣蔵にハマっていくきっかけのひとつだった。実際見ると歌舞伎の演出が落語とずいぶん違う。とはいえたしかに不気味でかっこいい〜(出番は超短いが)。

平成18年の海老蔵(11th)の定九郎はゾッとする色気で、「ワル」という生き物のよう。先代(つか、親父さん)と細かい振りが同じだったので、勘三郎襲名記念DVDで見た中村錦之助(信二郎時代)の定九郎はちょっとワイルドだったから、チームによって演出が違うんだなあと、私はたいそうおもしろがりました。昭和61年の尾上辰之助は上手に仕込んで、落語に出てくる定九郎のように胸にもべったり血がついていた。

ライブで見るといのししが写真やDVDで見るのより小ぶりに感じてかわいい。ええとその時の定九郎は中村橋之助。<スマートなイメージでした。


六段目 

「与市兵衛内勘平腹切の場」。

勘平は誤射した死体からお金を奪って仇討ちの連名に加わるために友達に軍資金を払ってホッとして帰宅。すると舅さんの遺体があとから運び込まれる。自分が撃ち殺してしまったのは舅でその死体から泥棒したのかと勘違いして大ショック。切腹する。(早野勘平 住家の場)

最初に観賞した時はもう、ストーリーが理不尽すぎて素人には見ちゃいられなかった。おばあちゃんの激怒も勘平のぐしゃぐしゃな気持ちも。

平成20年に中村座で見ましたら、勘平(勘三郎18th)の末路にぼろ泣きしちゃいました。


七段目

「祗園一力の場」。

けっこう上演され、見る機会が多い幕。

五段目で舅が強盗に取られた大金はカノジョのおかるが御茶屋に身を売った代金。実家での泥棒〜切腹騒ぎなど知らず、おとなしく御茶屋で奉公するおかるだったがひょんなことで討ち入りのリーダー大星由良之助の密書を読んでしまう。おかるの兄、寺岡平右衛門は秘密を知った妹おかるを殺すことで由良之助に忠誠を証明しようとする。

ぶっちゃけ、全段を通して大星由良之助がメインで活躍する唯一の段。

よく上演されるわりに、由良之助を演ずる役者は異口同音に「むずかしい」という。大酒を飲んでて血中アルコール濃度は上がってるのにシンは酔ってない。でも、酔ったフリをしなければいけない。というのを演じるのには骨が折れるとか。

さてDVDのおかる、女形の中村歌右衛門さんがご高齢で、妙齢なはずのおかるがおばあさんに見えちゃうのがじゃっかんサメた。しかしいろんなおかるを見たがこの人ほど「女性」の線というかデフォルメがすばらしい人はほかにしらない。中村福助のお軽(09顔見世)はその歌右衛門に直接手ほどきを受けてると言うだけに「あ」と思うほど歌右衛門っぽいところがあるが、ひじょうにリーズナブルというか、わかりやすい、なんというかキャバ嬢のような親近感のあるお軽がいい。ただ六段目で実家と名残惜しく別れたいきさつとの関連性は怪しくなる。

平成20年に白鴎27回忌公演(由良之助=幸四郎。おかる=芝雀。平右衛門=染五郎)で見ましたがライブで見た時はぼろ泣きしました。おかるが不憫で不憫で。歌舞伎のライブって、意識と感情が割と離れてて急にわっと泣けてくるんで不思議。理性の方が「あっと、ここで泣くの!?ハイ」て感じでいささかビックリする。歴史が築いた「型」は理屈抜きに日本人のDNAを刺激するようです。

由良之助と芸者衆が遊ぶとき、その公演当時の時事ネタを入れるモノボケの一発芸「見立て」が楽しい。(<仁左衛門が由良之助の時は見られない(先代はやってたけど)。上方系ではあんまりやらないそうです。中村座でもやってなかったが。)


八段目

「道行旅路の嫁入り」。

二段目に出てきた小浪とお母さんが押しかけ女房しに、幸せな夫婦生活などをあれこれ想像しながら大星家へ行く道のり。平成20年の中村座で初めて見たが、「原作に忠実」が建前なためか錦絵に見る女馬士おやまや奴角助が出てこなかった。文楽でもこの母子ふたりきりだった。 昭和61年国立劇場開場20周年のときのビデオを見たら、うかれた奴(やっこ)の吉平と運平の踊りがあり、その間母子は舞台袖に下がっていた。奴の二人はいわば息抜き的な陽気な役割だった。イヤホンガイドによると「江戸の浄瑠璃の清元や常磐津で演じるときや、ほかに女馬子とか伊勢参りの旅人や商人が絡むこともございます」というからいろいろとゲストにバリエーションがあるようであります。

踊りがいいんで、清元「おかげ参り」という独立した踊りにもなってるとか。DVD未収録。


九段目 

「山科閑居の場」。

上記の二人が嫁入りに来たのに、大星家では奥さんから自分の殿様のケンカを止めちゃった加古川さんの娘と、うちの息子と結婚なんてさせられませんと、けんもほろろに断られる。加古川さん本人が出てきて死を以て詫びを入れる。後半がちょっと長い印象。(山科閑居の場)


このあと、十段目に行かずに「清水一角」を上演していたというおはなしもございます。また、09年12月にラジオにうかがった際、義太夫の豊竹咲大夫先生から「顔世、お軽、戸無瀬…とにかく仮名手本の女子ばかりを集めて法要する滑稽浄瑠璃 忠臣蔵九半目というのがある」とうかがった。本サイトの早野勘平の記述における五段目の「五段目で運のいいのはシシばかり」というのはこの中の坊主の念仏の文句にあるようであります。そういえばこの作品ってずいぶん人死にが出ますが女子がひとりも死なないんですよね。


十段目 

「天河屋の場」。

討ち入りのための武器調達をした豪商、天川屋義平のはなし。

義平の忠義を試すために浪士がいろいろ詰問するが、義平は口を割らない。あたしが見たのはCSで放送された1959年2月歌舞伎座の中村吉右衛門劇団、市川猿之助一座、中村時蔵参加による「忠臣蔵」通し上演。昭和61年、国立劇場開場20周年のときの全段通し。〜以上の録画。近年ではこれらと2009〜2010大阪の新春大歌舞伎でしか上演されていない。(見に行けなかった…)

前後があってこそ引き立つ段だから、単独じゃ客入りが見込めないんで上演回数が少ないのかと思ってたが、ものの本で加賀山直三氏が「この一段はつまらない。愚作」と一蹴。義平の侠気はかっこいいし、ハッピーエンドだし個人的には大好きだが、たしかに九段目までの貫禄の由良助が、つづら(長持ち)の中に潜んで義平にドッキリをしかけるという趣向はなかなか「浮いてる」かも。人を試して結局謝るという、かっこわるいかんじだし。ちなみに国立劇場開場20周年ではつづらから出てこないで後ろの戸を開けて出てきた。

そのほかにも離縁した天川屋夫婦の復縁まで世話をするなど、討ち入り直前にしては手の込んだ「よけいなこと」をしすぎで、たしかに異色作。でも武器調達のキャラを入れようというセンスが素晴らしい。文楽では「天河屋」となっていた。

ちなみに、昭和初期の脚本を見ると由良之助ではなく数右衛門が長持ちから飛び出すバーションもあるようで、「最近の型」と紹介している。

(天川屋見世の場)DVD未収録。


十一段目

「討ち入りの場」。

この場だけいちいちアレンジが違うそうですな。昭和52年版(DVD)ですごく意外だったのは、史実において吉良邸討ち入りのときにわりと応戦してきて手こずったと言われる小坊主が本作品においてビジュアル化されていることであります。この幕はキャラクターがいろいろ出てきて楽しいのだが、H20平成中村座、H21顔見世ではカットされてました。(大広間の場)

吉良邸の庭(奥庭 泉水の場)での殺陣は見応えがあり、特に竹森喜多八(武林唯七がモデル。勝田だったりすることも)と小林平八(小林平八郎がモデル)の、ダンスのような一騎打ちは目を見張り、DVDで初めて見たときはテレビに向かって拍手しちゃいました。

つかみ合いとか雪の投げ合いとかが逆に新鮮。歌舞伎って池とかに落ちた人が這い上がってきた時の演出がかわいい。


大詰

「引き上げの場」。

一同が菩提寺の光明寺に向かう。その途中両国橋で服部逸郎という役人が労をねぎらう。メンバーが花道を引き上げてどんじりの寺岡平右衛門がさわやかにかけやを担いで胸はって大いばりで去っていき(特に有名じゃない役者さんがやるときはそういう演出はないが、どちらにしろ彼だけ衣裳がベスト姿で目立つ)、馬にまたがって隊列を見送る服部が「あっぱれ」とエールを送る。ひじょうに後味のいい幕引き。

歌舞伎の寺坂はなんだか無邪気でかわいいから好きであります。

ちなみにチャンバラのあと殿の墓前のシーンもある(焼香の場)。一番手柄の間十次郎寺坂吉右衛門の順で焼香をゆるされてそこらヘンでおしまいってのを文楽版で観た。


まだまだ映像化されてない「忠臣蔵シチュエーション」って、たくさんあるなあ。