清水一学
清水一学【しみず いちがく】…吉良家の家来。この人も吉良邸討ち入りの際に活躍した吉良家の剣客。
幼名・藤作。愛知県宮迫(みやば)の百姓の生まれで子供の頃から剣術をたしなみ、吉良が目をかけ15歳のときに江戸へ呼びやがて取り立てる。
小島剛夕のまんがではこどものころのガキ大将ぶりを見初められて赤馬でパトロール中の上野介に召し抱えられる。。古田求脚本のドラマでは小林平八郎にスカウトされてる。で、成人してからは安兵衛とお友達。
ドラマによっては大石に闇討ちをかけたり、吉良家門前の往来を通る、怪しいと思った人を片っ端から痛めつけるなど、凶暴に描かれることもあるが、安兵衛と旧友(堀内道場の同門)という設定の場合は忠義と友情のはざまでの葛藤がえがかれ、討ち入りの時、ふたりは清々しく戦って、一学は笑って死んでいったりする、清々しいアンチヒーロー。ちなみに松方版「大忠臣蔵」でそれらしいシーンがあったが、笑って死なないで苦しそうに西岡徳馬は逝きました。
ミフネ「大忠臣蔵」や「峠の群像」のときのように粋なスマートガイに演出される事もしばしば。特にミフネ版の天知茂の清水像は一見のんきと見せかけて強くカッコいいキャラですごく良かった。こちらも安兵衛と義兄弟の契りを交わしているパターン。(友情が描かれる第17話「公儀への一戦」は傑作)
冷淡に描かれた中では「松方版赤穂浪士(内容はハチャメチャ)」の舟木一夫が秀逸だった。
松竹「大忠臣蔵」では、完全な赤穂浪士シンパで、吉良に謝りながら死んでいく。
ちなみに「ヒッジョ〜にキビシイ」でブレイクした、テレビ番組『てなもんや三度笠』における財津一郎扮する「蛇口一角」の名の由来である。
史実では上野介とは最後の炭小屋まで一緒にいてくれて護衛にいそしんだ人。
清水一角。清水逸学。清水逸覚。
享年25
講談「清水一角の伝」
27歳の時に道場経営を始めるが、18歳のおねえちゃんに化けたタヌキを殺して評判になるまでは経営がうまくいかなかった。
いい師匠だが物堅いのが玉に瑕と、弟子達が品川の遊郭に誘い出し、初めて上がったにしちゃあ一学先生結構気に入ってしまい、やみつきの酒浸りになる。義理の悪い借金を作って花魁にもモテなくなってイヤんなっちゃったときに、女郎屋で出くわした面識のない、上杉の家来、千坂兵部の次男・新乃丞に工面してもらう。
ある日、新乃丞がとおりがかりの薩摩武士ふたりと喧嘩になり、2対1の真剣勝負になる。それを聞いた一学は駆けつけ事なきを得、これらのきっかけで千坂家と懇意になり、義理あって内匠頭切腹の後、新乃丞からの申し出があって道場をたたみ、上野介の警護をするようになります。
歌舞伎「清水一角」
かつて通し興行の時に、仮名手本の十段目がつまらないから九段目のあとにコレをやってたという時期があるそうです。見たのは平成19年12月の国立劇場、第257回歌舞伎公演。
第一幕 吉良家・牧山丈左衛門宅の場
吉良邸の用人の中でも、剣の腕を鼻にかけいつもぐでんぐでんの清水一角は、つまはじきもの。
雪の夜、吉良邸用人の牧山さんちが仲間内で忘年会をやってると、一角が呼ばれもしないのに酩酊状態で乱入してくる。内蔵助が京都で放蕩三昧なことに安心して酒宴を開いてるのに、彼だけは「討ち入りはある」と主張し口論になる。「あんたたちゃ目はあっても節穴。耳はあってもキクラゲ同然」と揶揄。乱闘になり(酔拳のように戦う一角が楽しい)あげくに放り出される。
探しに来てくれた弟とともに家に帰る。
第二幕 吉良家・清水一角宅の場
夫を亡くして出戻りの姉の待つ自宅に弟と帰ってくるがわずかな扶持で三人ぐらしはつらく、家の中はガランとしている。こぼれた酒を這いつくばってまで畳をなめる卑しい一角を姉は情けなくなって殴る。「そりゃわしが叩いたのではない!おじさまの仰せを受けわしが名代おじがせっかん!こう!こう!」「いっこうにこたえません!もっと打ちなされ!」アル中の総領をなげいてDVというのはおだやかではないが、初期の「男はつらいよ」的な暖かさも感じる。ただ、この作品における一角がどうしてここまで酒におぼれてるのかは明確ではない。安兵衛の酒好きとは比較にならない「きちがい水」である。
大望を持ってる弟が兄の代わりに務めに出かけると、まもなく大の字になっていびきをかく一角の耳に山鹿流の陣太鼓が聞こえる。「大酔なしとも心は乱れぬ」と着替えてるところへ牧山が「おまえだけ討ち入りを主張してたのは一味だからだろう!」と入ってきてたちまわり。袴をはきながら牧山のやりをよける一角。姉は自分のこそでを一角に渡し「敵を油断させろ」とアドバイスする。疑いが晴れあらためて一角と牧山は二人で出動する。
幕
たしかに十段目よりおもしろい。敵方ではあるが、悪の使者みたいなキャラが出てくるわけではなく、みんなふつうに家族があって、大望があって、暮らしがある。陣太鼓と共にせまってくる、人生の急変が悲しい未来を予想させる。一角も、弟も牧山も、みんなこれから殺されるのである。
十段目と、これと、松浦の太鼓の3本立てがあったら面白いだろうなあ。