新春ワイド時代劇 忠臣蔵〜その義その愛
作品概要 | |
制作会社 | テレビ東京 |
---|---|
公開年度 | 2012年 |
内蔵助役 | 舘ひろし |
評価 |
主人公は内野聖陽の堀部安兵衛。
正月恒例のテレ東の7時間ドラマ(7話完結)。
お家断絶後の、上方の長分別に待ちくたびれる江戸の浪士の話がメインで、安兵衛と内蔵助の温度差〜緊張感が上手に描かれており、それなりの意欲作。特に第1話は愉快で整っており、イキオイも良い。
安兵衛の気性はこんな感じでなくっちゃ、というイメージをいいかんじに内野聖陽が演じきっていて、良かった。
あと、ホリ役の常盤貴子もすばらしかったです。
役者さんやドラマの持つ独特の鼻息に魅せられて最初は三つ星だったが、放送から一ヶ月経っても以下のモヤモヤが解消されないので二つ星に変更しました。
まず「堀部安兵衛」を形作るときに欲しいトレードマークといえる素材がいろいろが捨てられていたことは、「安兵衛物語」ファンのあたしには痛く、あとを引いた。
本作をぼんやりと思い出すとき、「アレがなかったなあ・・」と、大酒飲み、あだ名、けんか仲裁、糊屋のばばあ、中津川友範、弥兵衛父娘の馬場の目撃〜たすきのエピソード、畳替え事件での活躍、「よけいな事をするな親不孝者!」といった、失われた数々の「定番」のあれこれに指を折る。コレは割愛し過ぎだ。
安兵衛と道場仲間の吉良側キャラとの友情がたいへん素敵なのに、その友の名は清水一学ではない。ファン、置いてけぼり。
この融通は「みんなで忠臣蔵世界を楽しみましょう」という気合を欠いている。
ヘルメットをかぶってない&ボスキャラのデザインがまるで違う映画「CASSHERN」とか、人を殺さない主義の!?戦国忍者「RED SHADOW 赤影」とかを(それらの不評とともに)思い出した。
なんで近年のリメイクは、わざわざ定番をぶちこわすのか?
史実を重んじてヒゲを取っ払った石坂浩二さんの「水戸黄門」が、どういう評判だったかをなぜ、簡単に忘れてしまうのか!?
もりいが大好きな娯楽時代劇「逃亡者(のがれもの)おりん」もやってるプロデューサーなのに、あのサービス精神に富んだ人が、どうしてディティールや設定にこだわらなかったのか??不可解千万!(<本作の吉良の台詞)。
おりんのボディスーツ姿に短パン履かすくらい残念だった。
さて、どっさり断舎利したからには、あとによほど見せ場があるのだろうと期待が高まるが、2話目のお家大変以降はのらりくらりの内蔵助のようすにじれこんだ江戸浪士のようすが暗く重い。これが少なくとも5話目ぐらいまで延々と続く。(展開もさることながら、舘ひろしの内蔵助が陰気で重く、余裕が無く息苦しい。)
また、脱盟者が言い分として「わたしは殿の顔も見たことないのに、なんのために貧乏してまでXデーを待ってなくちゃいけないんだ??」というような、歴史バラエティに出てくるようなこざかしい視点の近代的な発想をふりかざすのが、甚だナンセンス。(似たニュアンスのセリフは「 女たちの忠臣蔵」や「最後の忠臣蔵(TV版)」にもあるが、あくまで死にゆこうとする浪士との別れを惜しむ女が駄々をこねる際に出てくるセリフ。家来や家臣には顔を知る知らないよりも代々禄をもらってる大恩があるではないか。)
このセリフに象徴されるような、反封建制的なやりとりが随所にうかがえ、長時間ドラマにつきあってくたびれたこっちの心持ちにそのハイカラな価値観は簡単にリンクし、急進派が逸る理由が「とにかくやっつけたい!」という戦をしたくてワクワクしてる一途な血気からではなく「テンション保てなさそうだから…」と映りはじめると、いつの間にか「じゃあ討ち入りやめちゃえばいいのに」などと画面に声を掛けたくなってる自分がいる。
これ、ダメでしょう。
1950年代に脱盟者に焦点を当てた作品が量産されたがやがて路線がまた本寸法に戻った。評論家の佐藤忠夫さん曰わく「「忠臣蔵」は期待通りにハナシが進展しないと観衆の不興を買う。」(文藝春秋デラックスS.51第二巻第一号)
あるいは二度の「忠臣蔵」(仲代版。北大路版)を成功させたプロデューサー能村庸一氏は著書で曰わく「忠臣蔵はオーソドックスにかぎる。」(「実録テレビ時代劇史」野村庸一ちくま文庫)
いつか、260年以上つづいてる定番を受け継いだ新作を見て「そうこなくっちゃ!」「待ってました!」と叫んでみたいと、心から待ちわびております。
あ、蛇足を少々。
「よんどころな仕儀」とか「家の女子」(<セリフでは"武家のおなご")とか、放送中の字幕に脱字アリ。あと、ヘンな奴を指すときの「かぶきもの」って「歌舞伎」っていう漢字を当てていいの??
凶報の第2の使者の原惣右衛門が評定の場で内蔵助が「殿は切腹した」とみんなに知らせると、彼がみんなと一緒にビックリしてたのが草。あんたが知らせてくれた筈じゃねえかよ!(笑)