身代わり忠臣蔵

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2024年2月13日 (火) 00:07時点におけるKusuo (トーク | 投稿記録)による版

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作品概要
制作会社 東映
公開年度 2024年
内蔵助役 永山瑛太
評価 3ツ星


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(ネタバレ御免)


 おもしろかった。

 「嫌われ者の殿・吉良上野介(ムロツヨシ)が江戸城内で斬られ、あの世行き!斬った赤穂藩主は当然切腹。だが、殿を失った吉良家も幕府の謀略によって、お家存亡の危機に!! そんな一族の大ピンチを切り抜けるべく、上野介にそっくりな弟の坊主・孝証(ムロツヨシ)が身代わりとなって幕府をダマす、前代未聞の【身代わりミッション】に挑む!」

 …東映の公式ホームページより抜粋


 長いあいだ愛されてきた義士伝のエピソードをアレンジするのではなく、最近にありがちな、あらためて赤穂事件を素材に遊びましょう、という作品なので、忠臣蔵ファン的な視点でアレコレ言ってもしょうがないし、番宣見てたときからこれは「ムロツヨシさんを楽しむ映画」だとわかってたんで、彼がどうのびのびと演じるのかが見どころで、それはうまく行ってたと思う。

「もしも松の廊下の刃傷で吉良が死んでいたら」で出来る遊びをいろいろ試せてると思うし、笑いもしたし、ホロリもした。


 このストーリーはウォーレン・ベイティの「天国から来たチャンピオン」みたいな、イヤなじじいに別人が憑依する(本作の場合は身代わりだが)ことでそのパーソナリティが変わり、これまでそのじじいを敬遠してた人たちの心変わりや周囲の環境の変化とともに、ハートウォーミングなラストへ流れ込んでいくパターンなのだが、せっかくオリジナルの吉良を徹底した「傲慢でイヤミたっぷりな」「わるぐちを大声で言う」(<セリフより)ようなキャラにして、身代わりになったあとは「(お陰で)お家全体が明るくなった」(<セリフより)つってるわりに、なぜかもともと吉良邸内では家来に慕われるような描写があったり、子供たちがなついてきたりするシーンがあるから、身代わり前後のコントラストが弱く、言ってることとやってることの矛盾、ブレをいささか感じた。

 それを身代わりになってる弟に「兄は殺されて当たり前」とセリフでいちいち何度も蒸し返させて補完しようとしてたが、このへんのバランス、難しかったのかもなあ。

 かくして劇中の吉良邸のスタッフにも映画鑑賞者にも良い人として受け入れられちゃった吉良の不可避な「死」を、どういうプロセスでゴールインさせるのかなーと思ってたが、その工夫はおもしろかった。


 そーだなー…


 上記のような、気にならないていどの細か〜いほころびがちょいちょいあって(注釈01)、あまりに細かすぎるので「ま、いいか」とやり過ごして見ているうちにチリは積もり、ラストの市街戦のとある演出の(パンフレットにも書いてあるから、その内容を言ってもかまわないとは思うがくわしくは後日あらためます)、そのあまりのことにそれまでのほころびが急に見過ごせなくなってビリッと一気に破ける感はあった。(でもそれも評価に影響するほどではない)

 たぶんこの市街戦についてはいろんなアイデアが百出したんだと思うが、コメディとして成立させるためにこうするよりしかたがなかったんだろうか?

(それともあれかな。「こんな市街戦がある映画なんですから、それまでの細かいことはオメコボシを!」と言うつもりなのかな)(注釈02)


 ともあれ、近年には珍しい、救いようのない悪漢・吉良上野介の描写には、吉良びいきのかたがたにはいろいろ罰当たりに映る気の悪いとこがあったかと。




注釈01…ちなみにこまかいほころび、ちょっぴり申し上げますと(ほんとどうでもいい)…

 …おっぱいを直接に触りたいなら襟元から手を突っ込むのではなく、絶対に身八つ口のほうが楽だ思うんだけどな…。とか、高尾太夫とはまたベタな(&忠臣蔵と無関係だが落語や浪曲の「紺屋高尾」で有名な)名前を引っ張ってきたもんだな。とか、やりたい設定を成立させるためにずいぶんとアレコレ省略したなあ。とか、四十七士がみんな面長で似た顔立ちなのはメインキャラを際立たせるためだろうか。とか、吉良のクビを包んだ布に現れる大根の切断面みたいな真っ平らのシルエットは、リアルさを避けようとした配慮だと思うが、さめるわ〜。…みたいなそういうやつ。

 ↑ でも…、書いてて思ったけど、どれもこれも徹底的に「わかりやすさ」を追求した腐心の結果なのかもなあと思いました。。


注釈02…一度饗応役をしたことのある浅野内匠頭でさえ教えを乞わなきゃどうしようもない秘伝の作法の作者に、生まれてこの方そうした儀式典礼に触れもせず、あまつさえ武家社会にも関係のなかった乞食坊主が突如なりすますなんて、あまりに成立しないトンデモ設定なのだから、大胆な市街戦なんかしなくても、大目に見ているのに…。