「東海道四谷怪談」の版間の差分

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また「こいつ必要?」と思いがちな小平(佐田啓二)に新たな存在感が与えられており、お岩さんと戸板にくくられる資格を持っている。
 
また「こいつ必要?」と思いがちな小平(佐田啓二)に新たな存在感が与えられており、お岩さんと戸板にくくられる資格を持っている。
  
なによりこれまで若輩の私には魅力がもうひとつわからなかった岩役の田中絹代のたたずまいが可愛くて可哀想で、とにかく四谷怪談でほろりとさせられたのは初めて。
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なによりこれまで若輩の私には魅力がもうひとつわからなかった田中絹代(お岩)のたたずまいが可愛くて可哀想で、とにかく四谷怪談でほろりとさせられたのは初めて。
  
 
あとねえ、杉村春子が良かったなあ。浮世絵から抜け出たみたいなしなやかな「線」で、素晴らしかった。(つか、役者陣が天下一品でしょ。ここに宇野重吉(与茂七)や加東大介(新キャラ)が加わる)
 
あとねえ、杉村春子が良かったなあ。浮世絵から抜け出たみたいなしなやかな「線」で、素晴らしかった。(つか、役者陣が天下一品でしょ。ここに宇野重吉(与茂七)や加東大介(新キャラ)が加わる)

2017年5月4日 (木) 08:51時点における版

仮名手本忠臣蔵』のスピン・オフの怪談。


欲望、裏切り、DV、連続殺人など、ネガティブ要素をふんだんに構成して、こみ入ったコワイ話に仕上げた鶴屋南北のものすごいストーリー。

それでいてなぜかところどころユーモラスという、南北の脳みその稀代ぶりが発揮されている。


元・塩谷藩士、民谷 伊右衛門は舅を殺してまで復縁にこぎ着けた奥さん、お岩も死に至らしめ、その後いっぱい殺す。

ので、いろいろ呪われ発狂する。最後はお岩さんの妹の夫である佐藤与茂七に仇を討たれる。


とにかくお岩さんがかわいそうなのだが、これを演じる役者さんは相当な演技力や体力その他、スキルが要求される。

こわいけど、美しい、で、かわいそうですさまじいという演技はなまなかでは難易度が高そう。

産後の肥立ちの悪いお岩さんの所作には、死に至るまで踊りのような美しさがあり、目が離せない。

また、お岩さん担当の役者はほかに小仏小平、佐藤与茂七と計3役の早替わりをこなさねばならない。


「四谷怪談」というと映画製作にまつわる怪奇現象の都市伝説ばかりがクローズアップされがちだが、舞台のほうはとにかくストーリー、役者のグレードのほかにも、工夫されまくってる仕掛けなど、とにかく観客を楽しませようというサービスのてんこ盛り。

ホラーの基本である(?)、大量のネズミというアイデアなど、ともかくいろいろと、まったく現代(や、海外)にも見劣りしない大傑作であります。


映画

この項目を上げたところで、これまた途方も無い量の作品があり「くすや」二号館が必要になる(それほどでもないか)ので、本気は出さず、見たのから気まぐれに紹介。(とはいえ、忠臣蔵要素が盛り込まれてる作品はほとんど見当たらない)

古典芸能である歌舞伎の不気味さ&クレージーさにはなかなかおよばない感がある。

それにしてもどうしてこうクリエーターは本作を映像化したがるのか。

人間の業のものすごさが魅力なのでしょうか。(そそ。この作品ってオバケより人間のほうが怖い。)




新釈 四谷怪談(前・後編)…松竹・1949年5ツ星

監督:木下恵介

別格!!!!。東海道四谷怪談の、リ・イマジネーション作品。

もう、どっから讃えたらいいのやら…

とにかく歌舞伎の原作に奥行きを与えていて、「映像化する」という意味と意義をこれほど感じたことも珍しい。名匠・木下監督を捕まえてあたしなんぞがいまさらなにを言おうかであるが、画面構成もソツがないし、丁寧だし、凄いし、いろいろ隅々まで行き届いててつくづくまっとうで…

大悪党の民谷伊右衛門を上原謙みたいなへっぴり腰にやらせてなにごとかと思ったがこれにもちゃんと意味があって悪行に巻き込まれた「だめなやつ」を演じきっている。またその道に他者を引きずりこむ直助の滝沢修も十分に働いている。魔界より人間界のほうがよほど地獄。

また「こいつ必要?」と思いがちな小平(佐田啓二)に新たな存在感が与えられており、お岩さんと戸板にくくられる資格を持っている。

なによりこれまで若輩の私には魅力がもうひとつわからなかった田中絹代(お岩)のたたずまいが可愛くて可哀想で、とにかく四谷怪談でほろりとさせられたのは初めて。

あとねえ、杉村春子が良かったなあ。浮世絵から抜け出たみたいなしなやかな「線」で、素晴らしかった。(つか、役者陣が天下一品でしょ。ここに宇野重吉(与茂七)や加東大介(新キャラ)が加わる)


「当時」の鑑賞者がどう評価したかは微妙。怪奇映画というより人間ドラマになっており、それが怪奇映画を見に行くつもりで出かける当時の民度にどれほど響いたか?ランニングタイムも長いし。


は〜…これから「二十四の瞳」を見よっかな。あと、滝沢修をもっと見たくなったから「忠臣蔵 花の巻・雪の巻 (松竹)」「忠臣蔵(大映)」も見たくなちゃった。

あ、忘れてた。この映画、忠臣蔵は関係ないです。




四谷怪談…新東宝・1956年2ツ星

ベテラン小国英雄と、これがデビュー作となる田辺虎男という人の共同脚本。

小平や与茂七をカットして代わりに伊右衛門(若山富三郎)の母親(飯田蝶子)を加え彼女をブレーンにし、伊右衛門の悪行に新たなバックグラウンドを加えているが、果たしてそれが成功してるのか、ちょ〜っとよくわからない出来栄え。

母親がいなかったらただのノーアイデアで強がりの伊右衛門だが、だったらだったで徹底的にマザコンみたいなダメ男で描いてもおもしろかったかも。オリジナルの性格を多少引きずってるぶんキャラがブレる。

映画が古いということもあるだろうが若山富三郎がなにを喋ってるのかわからない時があり、ああそういえば「ブラックレイン」ではまるきりアフレコされてるシーンがあったっけなどと思い出しました。

与茂七がいないことでお察しと思いますが忠臣蔵には一切関係ないハナシ。白黒映画




四谷怪談…大映・1959年3ツ星

大映で前年に大石内蔵助を演った長谷川一夫が民谷伊右衛門。

長谷川一夫がこんな稀代のヒールをどう演じるのか、はじめは愛妻家っぽい伊右衛門がどう鬼に豹変するのか注目したがこの映画ったら、顔の皮は剥がないし、赤ちゃんはいないし、そもそも伊右衛門夫婦はド貧乏でもない。(ネタバレ>)なによりも伊右衛門の札付きの悪友が真犯人)

これほど伊右衛門に部のある「四谷怪談」をほかに知らない。

生前の岩にもじゃっかんトゥー・マッチな執着心なども与えて、とにかく負の要素を伊右衛門ひとりにしょいこませるのではなく、あちこちに分散させることで長谷川一夫のクリーンさを保とうとしているかんじ。

怪談映画に初挑戦の長谷川一夫を見に行ったファンがホッとするための作品で、怪談映画を楽しむのには物足りないかもしれない。エンドマークを見ながら「なんだこりゃ」と思わず口をついて出てしまった。(作品自体は独特のムードで、けっして悪くありません)

三隅研次監督作品。塩谷家も浅野家も出てこない忠臣蔵と無関係な作品。




怪談 お岩の亡霊…東映・1961年4ツ星

ダイナミックで大胆な画作りの正調四谷怪談映画。

若山富三郎がまた伊右衛門をやってるが、上記のはんちくな新東宝ので終わらせず、こっちで「やり直して」おいてよかったと思う。今度は性根が強悪な「ジャイアン」っぽい伊右衛門が仕上がっている。(直助の近衛十四郎はちょっと愉快な感じのザコキャラに。)

目張りで白塗りの時代劇から一新したキャラ作りは黒澤映画の助監の経験のある加藤泰(「緋牡丹博徒シリーズ」など)。リアルで汗臭い見応えある作品にしている。

大毒薬で災難な岩を藤代佳子が怖く不気味に演じ、木下恵介版で関心したばかりにもかかわらず「こうでなくっちゃ!」と楽しく怪談の面目を保っている。

こちらも忠臣蔵、一切関係なし。




四谷怪談…東宝・1965年3ツ星

仲代達矢が民谷 伊右衛門を演って好評だった新劇の舞台(演出は小沢栄太郎…本作の伊藤喜兵衛)の翌年に公開された。

岡田茉莉子の岩は品があり、化けても美しさを保っている。化けて伊右衛門に恨みをぶっつけてくるというよりも立身出世に目がくらみきった彼のゲスい生き様を嘆くかのようなスタンスが映画的。同時にホラー映画としてのオモムキは抑えめ。

「塩谷家(浅野家)」について具体的に出てこないぶん、浅野の家来が吉良家の家臣の婿に入るといった皮肉と非道さは無くなっている。・・・てことはここで紹介する意味なくなっちゃうのだなあ。

仲代もさることながら中村勘三郎(17th)の直助の好演も目立つ。(「修羅」の中村嘉葎雄と唐十郎の関係を思い出した。)

大筋も細かい部分もたいへん良く出来ていてわかりやすい。




四谷怪談 お岩の亡霊…大映・1969年3ツ星


10年前の同社の四谷怪談のありさまにアンチを唱えたいのかと思うばかりにじつに陰惨な「四谷怪談」で、50年代の作品のように呵責に囚われることのない冷淡な伊右衛門を佐藤慶が好演。直助の小林昭二も科学特捜隊とは思えない人非人に仕上がってる。それなら10年前の作品より大納得の「四谷怪談」かというとそうでもない。というのは、悪業がリアルなほどに観ていてフラストレーションになるのだ。歌舞伎のほうにおかしみが散りばめられてるのはそうしたストレスから観客を開放するためだからなのかもしれないと、あらためて南北の才能を感じる。


設定は天明6年とぐっと時代がくだり塩谷家ではなく遠州国相良藩の田沼意次失脚後にお家が没収&減俸されて生まれた浪人たち=伊右衛門や与茂七たちのハナシになっている。ので、忠臣蔵要素はゼロ。それ以外はおおむね原作の設定をなぞっている。

メリハリのはっきりした森一生(「酔いどれ二刀流」「薄桜記」)の演出が見やすくわかりやすいので「見ちゃいらんない」かんじだけど出来の良い作品には違いない。稲野和子のお岩さんも病弱で陰気臭くかわいそうでキレイ。

お岩さんが死んでからの立て続けの怪事件もテンポがよく、怯えおののく事件関係者を見るにつけ「ああ、自分は善人でいよう」と心がける気持ちになる。

ねずみナシ。




魔性の夏 四谷怪談より…松竹・1981年3ツ星

蜷川幸雄監督作品で、前半は良い意味で非常に映画的ではない、舞台的な(?)構図のとり方やセットの組み方、すごく斬新なカメラワーク、セリフの掛け合いなどが愉快に感じられ、『ええじゃないか』や『写楽』のようなアヴァンギャルド時代劇(<そんな分野があるのか、あたしの勝手な言い方でありますが)を彷彿とさせ、どことなく寺山修司映画っぽい呼吸を感じることもある。

65年の東宝映画「四谷怪談」について仲代達矢は自分の演じた登場人物について「蚊帳まで売ろうという貧乏所帯にしては身なりがきちんとしてる」とインタビューでコメントしていたが、本作はその点食い詰めた「場末感」を演出するのにあっちこっち気を使っている。

そんな空気の中、存外忠実なストーリーラインと高橋恵子(岩)と夏目雅子の美貌が素晴らしく、狂った伊右衛門のショーケンの奇演ぶりは申し分がない。

奇抜な演出と思われるところもあり、ネット上のレビューを見ると戸惑ってる人もいるようす。

蜷川監督は怖がって欲しいのやら、楽しんでほしいのやら、確かに戸惑うこともあるが、伊右衛門ひでえなあ。お岩さんかわいそうだなあ、はちゃんと、思う。


同監督の2004年公開「嗤う伊右衛門」は伊右衛門やお岩さんを始め四谷怪談に出てくるいろんなキャラや素材は出てくるものの、まるきり新しく組みなおしたリ・イマジネーション作品で、鶴屋南北も忠臣蔵もまったく関係ないが、絵作りセンスや脚本はなかなかステキ。