「忠臣蔵 風の巻・雲の巻」の版間の差分

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{{Cinema|制作=フジテレビ|公開=1991|内蔵助=仲代達矢|星=3|頃=}}
 
{{Cinema|制作=フジテレビ|公開=1991|内蔵助=仲代達矢|星=3|頃=}}
構成と言うか語り口が耳に入りやすく、見ててひじょうに小気味いい「整理された忠臣蔵」。上品で堅実でていねい。
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[[画像:Genzo2.jpg|thumb|役者絵:渡辺 謙]]
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構成と言うか語り口が耳に入りやすく、見ててひじょうに小気味いい「整理された忠臣蔵」。上品で堅実でていねい。高視聴率獲得作品。
  
これまでの数年、パロディやスピン・オフ、新解釈などが目立つ中で、真っ正面から取り組んだ出来のいいスタンダード版。笑ってしまうほどの超スタンダード。有名な台詞もほとんど網羅している(てか、じょうずにまとめた寄せ集め?)。
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これまでの数年、パロディやスピン・オフ、新解釈などが目立つ中で、真っ正面から取り組んだ出来のいいスタンダード版。'''笑ってしまうほどの超スタンダード'''。有名な台詞もほとんど網羅している(てか、じょうずにまとめた寄せ集め?<small>註01</small>)。
  
 
必要な要素だけまとめたら全部でランニングタイムがどれくらいになるかということがわかるお手本にもなる。
 
必要な要素だけまとめたら全部でランニングタイムがどれくらいになるかということがわかるお手本にもなる。
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こうオーソドックスだと、見ていて先に出てくる定番のキャラやエピソードが楽しみになる。
 
こうオーソドックスだと、見ていて先に出てくる定番のキャラやエピソードが楽しみになる。
  
ビギナーは前年のたけし版とこれを見れば忠臣蔵はだいたいつかめる。
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ビギナーは前年のたけし版とこれを見れば忠臣蔵や赤穂事件のアウトラインはほとんどつかめるのでは?(とはいえ、本作はビデオ化は成されているが、DVDなどにはなっておらず、たけし版に至っては絶望的に再放送などが無い)
  
ただ、あえて苦言を呈するとするならば、もうひとつ面白みに欠ける。全部が首尾よく整ってるが遊びが無い。オカズが無い。人というのは皮肉なことに、まじめで普通より、どっか出来損ないのほうが気に入ったりする。これが、本作品より6年前の里見浩太朗版に人気が集まる理由ではあるまいか。
 
  
晩年のハナ肇が出てる(大工の棟梁)のが嬉しい。不思議とクレージーキャッツのメンバーは忠臣蔵と縁が薄い。
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脚本家の古田氏は、前年の「[[時代劇特別企画 忠臣蔵|たけし版]]」が変化球の頂点を極めていたので、自分は下手に背伸びせず古典的なオーソドックスなものに戻そう。と、赤穂の露天風呂で思いついたとコメントしている。(2009年12月時代劇専門チャンネル主催「時代劇寺子屋シリーズ(1)「親しく学ぼう 忠臣蔵」(会場:泉岳寺)にて)
  
音楽の佐藤勝は基本的にファンだが、ここでの仕事がいささか「軽い」。「日本沈没」の時の軽さに似てる。「用心棒」は無理にしても「ゴジラ対メカゴジラ」くらいに張り切ってほしかった。
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古田氏はこの後、10余年にわたりここで完成させた脚本を他作品に切ったり貼ったりしてリサイクルをするが、本作品のまとめ方がやはり出色で、いろんな俳優があとから隠し球のように登場する構成や、講談から持ってきたアレコレをテレビ用にアレンジしてる様はたいへんうまくいってて楽しい。
  
この当時にしては合成がうまい。
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晩年のハナ肇が出てる([[平兵衛|大工の棟梁]])のが嬉しい。不思議とクレージーキャッツのメンバーは忠臣蔵ドラマと縁が薄い。<small>註02
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さてこの作品、あえて苦言を呈するならば、全体的にもうひとつ「おかしみ」に欠ける(ハナ肇も渋い演技で、コメディリリーフではない)。元禄時代の華やかさも無い。全部が首尾よく整ってるが遊びが無いのだ。オカズが無い。
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人というのは皮肉なことに、まじめで普通より、どっか「つっこみどころ」があるほうが気に入ったりする。これが、本作品より6年前の[[年末時代劇スペシャル 忠臣蔵|里見浩太朗版]]に人気が集まる理由ではあるまいか。
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劇伴(音楽)の佐藤勝は基本的にファンだが、ここでの仕事がいささか「軽い」。「日本沈没」の時の軽さに似てる。「用心棒」は無理にしても「ゴジラ対メカゴジラ」くらいに張り切ってほしかった。
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意外にこの当時は合成技術がうまい。同じ年に放送の大河にも見受けられる。
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本作で大石内蔵助を演る仲代達矢と言えば黒澤映画の常連だが、黒澤明はかつて忠臣蔵について「47人が寄ってたかってじいさんを殺す映画のなにがおもしろいんだ。じいさんが47人殺すならおもしろいけど」と言って忠臣蔵制作に後ろ向きだったように伝えられるが(たしか脚本家の橋本忍さんがおっしゃってた記憶がある。要出典)、放送年の「週刊テレビ番組Vol.18(49号 通巻885号)東京ポスト社」の記事に、仲代達矢が「前に黒澤明監督から将来、キミの大石で忠臣蔵を撮りたいねと話されたことを思い出します。」とコメントしていたとある。忠臣蔵&黒澤ファンのあたしには貴重な証言だ。
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註01…プロデューサー能村 庸一著「実録テレビ時代劇史」によれば、「寄せ集め」(<これは2chの言い方)的なことについては著作権が心配だったらしいが、「忠臣蔵は日本人みんなのもの」という都合のいい解釈で、面白エピソードは迷わず取り込んでいったという。(ちなみに本作は氏の手掛けた時代劇の中でも「人生最高のレイティング」な高視聴率だったと、同著作の中で言っている。)
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註02…ほかの忠臣蔵作品でクレージーというと「[[峠の群像]]」で旅籠に現れるニセ内蔵助を犬塚弘が演じたくらい。いいアクセントになっていたものの出番はちょっぴり。ちなみにクレージーが主体となった場合、舞台では1966年に東京宝塚で「クレージーの大忠臣蔵」を公演しているし、シャボン玉ホリデーでは毎年恒例だった(「テレビの黄金時代」より)そうで「おなじみ忠臣蔵だよ ピーナッツ(S.38)」「シャボン玉忠臣蔵(S.46)」等(「ジ・オフィシャル・クレージーキャッツ・グラフィティ」より)があるそうです。
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画像:nakadai_ad.jpg|thumb|当時のキネマ旬報広告。
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[[Category:くすおの忠臣蔵作品評|1991]]
 
[[Category:くすおの忠臣蔵作品評|1991]]

2022年11月24日 (木) 18:21時点における版

作品概要
制作会社 フジテレビ
公開年度 1991年
内蔵助役 仲代達矢
評価 3ツ星
役者絵:渡辺 謙

構成と言うか語り口が耳に入りやすく、見ててひじょうに小気味いい「整理された忠臣蔵」。上品で堅実でていねい。高視聴率獲得作品。

これまでの数年、パロディやスピン・オフ、新解釈などが目立つ中で、真っ正面から取り組んだ出来のいいスタンダード版。笑ってしまうほどの超スタンダード。有名な台詞もほとんど網羅している(てか、じょうずにまとめた寄せ集め?註01)。

必要な要素だけまとめたら全部でランニングタイムがどれくらいになるかということがわかるお手本にもなる。

こうオーソドックスだと、見ていて先に出てくる定番のキャラやエピソードが楽しみになる。

ビギナーは前年のたけし版とこれを見れば忠臣蔵や赤穂事件のアウトラインはほとんどつかめるのでは?(とはいえ、本作はビデオ化は成されているが、DVDなどにはなっておらず、たけし版に至っては絶望的に再放送などが無い)


脚本家の古田氏は、前年の「たけし版」が変化球の頂点を極めていたので、自分は下手に背伸びせず古典的なオーソドックスなものに戻そう。と、赤穂の露天風呂で思いついたとコメントしている。(2009年12月時代劇専門チャンネル主催「時代劇寺子屋シリーズ(1)「親しく学ぼう 忠臣蔵」(会場:泉岳寺)にて)

古田氏はこの後、10余年にわたりここで完成させた脚本を他作品に切ったり貼ったりしてリサイクルをするが、本作品のまとめ方がやはり出色で、いろんな俳優があとから隠し球のように登場する構成や、講談から持ってきたアレコレをテレビ用にアレンジしてる様はたいへんうまくいってて楽しい。


晩年のハナ肇が出てる(大工の棟梁)のが嬉しい。不思議とクレージーキャッツのメンバーは忠臣蔵ドラマと縁が薄い。註02


さてこの作品、あえて苦言を呈するならば、全体的にもうひとつ「おかしみ」に欠ける(ハナ肇も渋い演技で、コメディリリーフではない)。元禄時代の華やかさも無い。全部が首尾よく整ってるが遊びが無いのだ。オカズが無い。

人というのは皮肉なことに、まじめで普通より、どっか「つっこみどころ」があるほうが気に入ったりする。これが、本作品より6年前の里見浩太朗版に人気が集まる理由ではあるまいか。


劇伴(音楽)の佐藤勝は基本的にファンだが、ここでの仕事がいささか「軽い」。「日本沈没」の時の軽さに似てる。「用心棒」は無理にしても「ゴジラ対メカゴジラ」くらいに張り切ってほしかった。


意外にこの当時は合成技術がうまい。同じ年に放送の大河にも見受けられる。


<附言>

本作で大石内蔵助を演る仲代達矢と言えば黒澤映画の常連だが、黒澤明はかつて忠臣蔵について「47人が寄ってたかってじいさんを殺す映画のなにがおもしろいんだ。じいさんが47人殺すならおもしろいけど」と言って忠臣蔵制作に後ろ向きだったように伝えられるが(たしか脚本家の橋本忍さんがおっしゃってた記憶がある。要出典)、放送年の「週刊テレビ番組Vol.18(49号 通巻885号)東京ポスト社」の記事に、仲代達矢が「前に黒澤明監督から将来、キミの大石で忠臣蔵を撮りたいねと話されたことを思い出します。」とコメントしていたとある。忠臣蔵&黒澤ファンのあたしには貴重な証言だ。



註01…プロデューサー能村 庸一著「実録テレビ時代劇史」によれば、「寄せ集め」(<これは2chの言い方)的なことについては著作権が心配だったらしいが、「忠臣蔵は日本人みんなのもの」という都合のいい解釈で、面白エピソードは迷わず取り込んでいったという。(ちなみに本作は氏の手掛けた時代劇の中でも「人生最高のレイティング」な高視聴率だったと、同著作の中で言っている。)


註02…ほかの忠臣蔵作品でクレージーというと「峠の群像」で旅籠に現れるニセ内蔵助を犬塚弘が演じたくらい。いいアクセントになっていたものの出番はちょっぴり。ちなみにクレージーが主体となった場合、舞台では1966年に東京宝塚で「クレージーの大忠臣蔵」を公演しているし、シャボン玉ホリデーでは毎年恒例だった(「テレビの黄金時代」より)そうで「おなじみ忠臣蔵だよ ピーナッツ(S.38)」「シャボン玉忠臣蔵(S.46)」等(「ジ・オフィシャル・クレージーキャッツ・グラフィティ」より)があるそうです。