忠臣蔵 暁の陣大鼓

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2021年6月2日 (水) 14:44時点におけるKusuo (トーク | 投稿記録)による版

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作品概要
制作会社 松竹
公開年度 1958年
内蔵助役 (市川寿海)
評価 2ツ星


ガチッとした作りの安兵衛ものがたり。

主役を演じるのは当時のホープ俳優、森美樹。彼はこの数年後に、若くしてガス中毒で亡くなったそうだが、この作品の公開年周辺はコンスタントに年に5〜6本映画に出ており、松竹のチカラの入れようがわかる。

彼のイケメンで大柄な安兵衛は、ダイナミックで好感度が高い。


新発田藩時代〜討ち入りまでを見つめ続ける、意外に珍しいロングスパンのストーリーライン。

たいがい安兵衛を主役に立てる場合は、高田馬場を含めたケンカ安のハナシが山場として映像化される。ゆとりがあれば、堀部家に婿入りするところで終わる。

これは、もちろん尺の問題が一番だろうが、浪人時代と仕官時代では周辺のテーマや事情、キャラクターがまるっきり変わって、二部構成になってしまい、作品として一貫性がなくなるので仕方がないのだろうが、本作品は浅野家時代のエピソードをすっぽり抜いて、仕官前後だけに焦点を置き、安兵衛の浪人時代だけをキープすることで、ビジュアル的に観客を煙にまかない工夫をしている。

ただ、それだと前半クライマックスで結ばれた、弥兵衛お幸との新生活はどうしてくれるの?てことになるのだが、本作品の安さんは堀部と「離縁状態」。

オイオイオイ!そりゃねえだろう!と思うところだが、そもそもこの作品は、森美樹と髪結屋の瑳峨三智子とのラブストーリーに比重を置いているのでしょうがないのであります。「二人を見つづける映画」。(ちなみに、この二人はプライベートでも熱愛関係にあったという。)


それがわかっていないと、安兵衛の人生は前半と後半、同じロケーションでやっぱり一緒にはまとまらないわけで、この映画も前半のケンカ安時代は軽妙で超おもしろく呑気に見ていられる(生真面目な安さんが呑んべえ安になるきっかけもスムーズ。)のだが、御家断絶のあと、町人(!)に身をやつして過去に住んでいた長屋に舞い戻って嵯峨との同棲生活(しかも、ヒモ=文字通り髪結屋の女房)…と、なってくると、展開も超不自然だし、忠臣蔵物としてはトーンダウン。

ていうか、そもそも赤穂事件の顛末は、鑑賞する日本人には知ってて当たり前という脚本になっており、字幕ベースの説明が一瞬あるだけで(前述のとおり浅野家時代の話が1カットも無い)安兵衛が小間物屋姿になっているし。とにかく平成以降の若者が見たら話についていけないかと。

ふだんなら史実でも、たいがいの映画やドラマでも、内蔵助に討ち入り決行をせっつく急進派の安さんが、本作のように周囲から「仇討ちをやらないのかい、ケッ」とさげすまれる「ニート町人」の安さんになってしまては、キャラの魅力が欠ける。(<イデオロギーの違う、大石内蔵助の浮気や離縁をトレースしたのが間違い。ちなみに辞世も内蔵助のパクリになっている)

だからこれも、そんなかわいそうな森美樹を瑳峨三智子があたためてあげるのを御覧じろ、というのがこの作品の狙いなのでしょうがない。


なんだかんだ言っても映画全体は面白くまとまっており、気楽な一本。


あと、肝心な高田馬場の殺陣(たて)がうまくないのだが、森さんが得意じゃないのか、監督(倉橋良介)の演出のせいか、殺陣師が二刀流の振り付けが不得手だったのか不明。

討ち入りのとき、助成で両国橋で単身闘う(相手はどこの誰か、わかんない侍たち)、俵星玄蕃(近衛十四郎)のシーンのほうがたっぷりしてたりする。笑


(附言)

2021年6月現在、Wikipediaに載ってないが、若き林与一氏が引き揚げシーンで大石主税として参列している。セリフは「ハイ」のみ。銀幕デビュー作品かもしれない。