「実録忠臣蔵 天の巻 地の巻 人の巻」の版間の差分

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{{Cinema|制作=日活大将軍|公開=1926|内蔵助=尾上松之助|星=3|頃=}}
 
{{Cinema|制作=日活大将軍|公開=1926|内蔵助=尾上松之助|星=3|頃=}}
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[[画像:Maccyan.jpg|thumb|役者絵:尾上松之助]]
  
 
貴重な、尾上松之助、晩年(この公開年になくなっている)の「忠臣蔵」。
 
貴重な、尾上松之助、晩年(この公開年になくなっている)の「忠臣蔵」。
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当然といえば当然なのだろうが[[尾上松之助の忠臣蔵|16年前の「忠臣蔵」]]から日本映画も成長し、尾上松之助の貫禄も演技も、カメラの動きや構図のとり方もグッと「映画的」になっている。
 
当然といえば当然なのだろうが[[尾上松之助の忠臣蔵|16年前の「忠臣蔵」]]から日本映画も成長し、尾上松之助の貫禄も演技も、カメラの動きや構図のとり方もグッと「映画的」になっている。
  
もともと3時間あったと言われる本作は、1時間強のダイジェストになった状態で家庭用映画として保存されていたフィルムが発見され、[http://toyfilm-museum.jp/ おもちゃ映画ミュージアムさん]に寄贈されたものが公開されたのだが、それだけにクレジットに「[[鍔屋宗伴]]…大河内伝次郎」とあるのに本編に出てこなかったり、討ち入りのときに女間者が吉良の面相を浪士に伝えるが彼女が誰の身内か謎であったりする(たぶん[[山岡覚兵衛]]の奥さんあたりじゃないかなあ)。
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もともと3時間あったと言われる本作は、1時間強のダイジェストになった状態で家庭用映画として保存されていたフィルムが発見され、[http://toyfilm-museum.jp/ おもちゃ映画ミュージアムさん]に寄贈されたものが公開されたのだが、それだけにクレジットに「[[鍔屋宗伴]]…大河内伝次郎」とあるのに本編に出てこなかったり<small>(※註01)</small>、討ち入りのときに女間者が吉良の面相を浪士に伝えるが彼女が誰の身内か謎であったりする(たぶん[[山岡覚兵衛]]の奥さんあたりじゃないかなあ)。
  
 
しかしそれら削除シーンが無くても、いろいろ独特なアレンジが残っている。すごく斬新に思えた。
 
しかしそれら削除シーンが無くても、いろいろ独特なアレンジが残っている。すごく斬新に思えた。
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●まず、[[阿久里/瑤泉院|あぐり]]のほかにあぐりと同じ熱量で[[浅野内匠頭]]を心配する小姓が出てくる(前髪姿で美少年。誰かは不明)。事件の時はあぐりと並んで凶報を聴いたりして、そんなの見たこと無い。
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●まず、[[阿久里/瑤泉院|あぐり]]のほかにあぐりと同じ熱量で[[浅野内匠頭]]を心配する小姓が出てくるなー(前髪姿で美少年。誰かは不明)と思ったら[[浅野大学|大学]]??だった。事件の時はあぐりと並んで凶報を聴いたりして、そんなの見たこと無い。
  
 
●内匠頭がウソを教えられて装束を間違えるエピソードのあとに、勅使を出迎える場所をしっかり間違えて大恥かいて泣くシーンがある。
 
●内匠頭がウソを教えられて装束を間違えるエピソードのあとに、勅使を出迎える場所をしっかり間違えて大恥かいて泣くシーンがある。
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この時内匠頭がググーッとアップになって上野介のほうもググーッとよったかと思ったら、刃傷がすげえルーズ(引き)になって、なんか、寄るとか引くとかにまだ慣れてない感じw。
 
この時内匠頭がググーッとアップになって上野介のほうもググーッとよったかと思ったら、刃傷がすげえルーズ(引き)になって、なんか、寄るとか引くとかにまだ慣れてない感じw。
  
(補足:むかしの映画評論家の立花高四郎氏によると、これは編集間違いではなくもともと刃傷の直前に精進料理であってる。と教えていただきました。)
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(補足:むかしの映画評論家の立花高四郎氏の「映画道漫談」によると、もともと刃傷の直前に精進料理だったそうで編集ミスでないそうです。)
  
 
●赤穂では江戸での殿さまのごちそう役が無事に済むよう、[[大石内蔵助|内蔵助]](松之助)が神社(どこ?)でお百度を踏んでいる。そこへやってくる早駕籠を見つけて急に止める内蔵助、早駕籠を担ぐ人も乗ってる人も駕籠そのものもみんなひっくり返る。[[早水藤左衛門]]と[[萱野三平]]から凶報を聴いた内蔵助は持っていた竹串をバラバラと落とす。
 
●赤穂では江戸での殿さまのごちそう役が無事に済むよう、[[大石内蔵助|内蔵助]](松之助)が神社(どこ?)でお百度を踏んでいる。そこへやってくる早駕籠を見つけて急に止める内蔵助、早駕籠を担ぐ人も乗ってる人も駕籠そのものもみんなひっくり返る。[[早水藤左衛門]]と[[萱野三平]]から凶報を聴いた内蔵助は持っていた竹串をバラバラと落とす。
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●一力茶屋で、苅藻太夫をモデルに絵を描いてる内蔵助の背後に仲居4人がソッと近寄りワッとおどろかすが、内蔵助は反撃に出て並んでる4人の顔にいっぺんに絵の具をサーッと横一直線に引くシーンが面白かった。逃げる仲居たち。
 
●一力茶屋で、苅藻太夫をモデルに絵を描いてる内蔵助の背後に仲居4人がソッと近寄りワッとおどろかすが、内蔵助は反撃に出て並んでる4人の顔にいっぺんに絵の具をサーッと横一直線に引くシーンが面白かった。逃げる仲居たち。
  
仲居たちが逃げ込んだたまり場のふすまがスーッと開いて絵の具のツボを持った内蔵助が現れると、おおぜいの仲居衆がパニックになるというシーンも笑った。
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仲居たちが逃げ込んだたまり場のふすまがスーッと開いて内蔵助が現れると、おおぜいの仲居衆がパニックになるというシーンも笑った。
  
 
苅藻太夫と内蔵助がなにやら屋外の小屋の脇で密談をしているが女間者が聞き耳を立てるも、それが水車小屋なのでものすごく聞こえないというシーンも可笑しかった。
 
苅藻太夫と内蔵助がなにやら屋外の小屋の脇で密談をしているが女間者が聞き耳を立てるも、それが水車小屋なのでものすごく聞こえないというシーンも可笑しかった。
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●いきなりズドーンと飛んでみんなを集めて円山会議(…字幕では「泉岳寺」ということになってるが)。そこでメンバーめいめいに椀の置かれたお膳が用意されており、椀の中にまんじゅうみたいの(おはぎ?)が入っててそれをどけると椀の底に「討ち入り決行」を知らせるメモが入ってる。ウォーと盛り上がるメンバー。お椀の筆談だいなし(笑)。
 
●いきなりズドーンと飛んでみんなを集めて円山会議(…字幕では「泉岳寺」ということになってるが)。そこでメンバーめいめいに椀の置かれたお膳が用意されており、椀の中にまんじゅうみたいの(おはぎ?)が入っててそれをどけると椀の底に「討ち入り決行」を知らせるメモが入ってる。ウォーと盛り上がるメンバー。お椀の筆談だいなし(笑)。
  
●討ち入りのとき、各メンバーに付けたひらがな文字は「左仮名は表門、右文字は裏門、同文字3人は一組で」と指示が出て、これも斬新だった。
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●討ち入りのとき、各メンバーに付けたひらがな文字は「左仮名は表門、右文字は裏門、同文字3人は一組で」と指示が出て、これも斬新だった。(<講談本にある)
  
 
●「赤穂浪士の乱入だッ」・・・赤穂浪士・・大佛次郎の作品より前の映画ですが、ま、大佛次郎が発明した言葉でもないので、いやでもやっぱり、この字幕・・・
 
●「赤穂浪士の乱入だッ」・・・赤穂浪士・・大佛次郎の作品より前の映画ですが、ま、大佛次郎が発明した言葉でもないので、いやでもやっぱり、この字幕・・・
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というわけで、字幕と内容とに「おや」と思うところがちょいちょいあったのですが、なんでも本作は尾上松之助の一周期(昭和2年)に『増補改訂忠臣蔵』と名を変えて上演しているそうであります(※01)。その際大河内伝次郎の鍔屋宗伴とかが「増補」されたようで、「おや」と思う原因の手がかりなのかなと思っております。
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というわけで、字幕と内容とに「おや」と思うところがちょいちょいあったのですが、なんでも本作は尾上松之助の一周忌(昭和2年)に『増補改訂忠臣蔵』と名を変えて上演しているそうであります<small>(※註02)</small>。その際大河内伝次郎の鍔屋宗伴とかが「増補」されたようで、「おや」と思う原因の手がかりなのかなと思っております。
  
  
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※01・・・大正元年にMパテー商会、横田商会、吉沢商会、福宝堂が合併して日活が設立されるがトップの意見が合わず、おりからの不景気風に暖簾をあおられて、しばしば前に撮った映画にちょっぴり新しく撮ったのをつないで上映してしのいだことがあったそうです。
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※註01・・・本作は、ヒットしたいっぽうで「討ち入りまでの義士の苦心が不足してる」という批判もあったんで、人気急上昇の大河内傳次郎の[[鍔屋宗伴]]のエピソードを足して内容を整え、再ヒットを狙ったとされている。増補版では、講談とはまた違う、宗伴の協力ぶりが描かれていたようだ。<small>(朝日ソノラマ「大河内傳次郎 人と作品 その魅力のすべて」)</small>
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※註02…大正元年にMパテー商会、横田商会、吉沢商会、福宝堂が合併して日活が設立されるがトップの意見が合わず、おりからの不景気風に暖簾をあおられて、しばしば前に撮った映画にちょっぴり新しく撮ったのをつないで上映してしのいだことがあったそうです。

2021年6月24日 (木) 13:12時点における最新版

作品概要
制作会社 日活大将軍
公開年度 1926年
内蔵助役 尾上松之助
評価 3ツ星


役者絵:尾上松之助

貴重な、尾上松之助、晩年(この公開年になくなっている)の「忠臣蔵」。

当然といえば当然なのだろうが16年前の「忠臣蔵」から日本映画も成長し、尾上松之助の貫禄も演技も、カメラの動きや構図のとり方もグッと「映画的」になっている。

もともと3時間あったと言われる本作は、1時間強のダイジェストになった状態で家庭用映画として保存されていたフィルムが発見され、おもちゃ映画ミュージアムさんに寄贈されたものが公開されたのだが、それだけにクレジットに「鍔屋宗伴…大河内伝次郎」とあるのに本編に出てこなかったり(※註01)、討ち入りのときに女間者が吉良の面相を浪士に伝えるが彼女が誰の身内か謎であったりする(たぶん山岡覚兵衛の奥さんあたりじゃないかなあ)。

しかしそれら削除シーンが無くても、いろいろ独特なアレンジが残っている。すごく斬新に思えた。

量産されてる(?)時代なので他作品との区別化をはかってこうなったのだろうか?

ミュージアムで公開してる「天の巻」と、京都国際映画祭のとき大江能楽堂で公開された長い尺のバージョンと、両方合わせた内容をご紹介。


●まず、あぐりのほかにあぐりと同じ熱量で浅野内匠頭を心配する小姓が出てくるなー(前髪姿で美少年。誰かは不明)と思ったら大学??だった。事件の時はあぐりと並んで凶報を聴いたりして、そんなの見たこと無い。

●内匠頭がウソを教えられて装束を間違えるエピソードのあとに、勅使を出迎える場所をしっかり間違えて大恥かいて泣くシーンがある。

●で、このあとで梶川与惣兵衛が内匠頭に「式が終わったら桂昌院様にお知らせを」と言ってると、吉良が割って入って「田舎大名におたずねあってナニゴトがお分かりになろう」とイヤミ。で、ですね、このあとにご膳部のあらためシーンが来る。「精進料理とは不吉」ってアレです。これ、この順番であってるのでしょうか。家庭用に編集するときに間違っちゃって字幕はあとから間に合わせるように新しく入れたりしているのでわ??

で、あらためて松之大廊下となり、「ただ今調理中なのでご猶予を」「御用繁多じゃ」ピシャーリ!という字幕でケンカになってはいくが、料理のハナシで刃傷…。

この時内匠頭がググーッとアップになって上野介のほうもググーッとよったかと思ったら、刃傷がすげえルーズ(引き)になって、なんか、寄るとか引くとかにまだ慣れてない感じw。

(補足:むかしの映画評論家の立花高四郎氏の「映画道漫談」によると、もともと刃傷の直前に精進料理だったそうで編集ミスでないそうです。)

●赤穂では江戸での殿さまのごちそう役が無事に済むよう、内蔵助(松之助)が神社(どこ?)でお百度を踏んでいる。そこへやってくる早駕籠を見つけて急に止める内蔵助、早駕籠を担ぐ人も乗ってる人も駕籠そのものもみんなひっくり返る。早水藤左衛門萱野三平から凶報を聴いた内蔵助は持っていた竹串をバラバラと落とす。

●でねでね!三村次郎左衛門寺坂吉右衛門矢頭右衛門七とがいっぺんに出てくる大評定ってあたしのアニメぐらいと思ってたらこの作品にもありました。もちろんアニメみたいにふざけませんが3人は「身分の軽重によって忠義の念に変わりがありましょうか!」「冥土で殿の草履を取るのは寺坂の役目!」「父は自害しました」と頑張る。

●一力茶屋で、苅藻太夫をモデルに絵を描いてる内蔵助の背後に仲居4人がソッと近寄りワッとおどろかすが、内蔵助は反撃に出て並んでる4人の顔にいっぺんに絵の具をサーッと横一直線に引くシーンが面白かった。逃げる仲居たち。

仲居たちが逃げ込んだたまり場のふすまがスーッと開いて内蔵助が現れると、おおぜいの仲居衆がパニックになるというシーンも笑った。

苅藻太夫と内蔵助がなにやら屋外の小屋の脇で密談をしているが女間者が聞き耳を立てるも、それが水車小屋なのでものすごく聞こえないというシーンも可笑しかった。

●山科の閑居では下の小さな男の子ふたり(大三郎が生まれちゃってる)が花魁道中の真似事みたいなことをしてとにかく親父を全面肯定。これが「山科の別れ」のときに効いてくる。ふたりはお母さんと出かけかけるが大好きなおとうちゃんや主税にいちゃんと一緒にいたいと父のそばへ戻ってきて泣いて懇願する。これも見たこと無いアプローチだが涙をさそう。

●どこのシーンなのか、吉良が烏帽子を見せられて「これは長矩の烏帽子だ」と拒絶するシーンがあった。また、酒店の二階で絵図面を広げて相談する浪士のひとりが頭にオオアザのようなものを作ってセンターを張っていたが、人相を変えようと煮え湯をかぶった堀部安兵衛だったのかもしれない。

●いきなりズドーンと飛んでみんなを集めて円山会議(…字幕では「泉岳寺」ということになってるが)。そこでメンバーめいめいに椀の置かれたお膳が用意されており、椀の中にまんじゅうみたいの(おはぎ?)が入っててそれをどけると椀の底に「討ち入り決行」を知らせるメモが入ってる。ウォーと盛り上がるメンバー。お椀の筆談だいなし(笑)。

●討ち入りのとき、各メンバーに付けたひらがな文字は「左仮名は表門、右文字は裏門、同文字3人は一組で」と指示が出て、これも斬新だった。(<講談本にある)

●「赤穂浪士の乱入だッ」・・・赤穂浪士・・大佛次郎の作品より前の映画ですが、ま、大佛次郎が発明した言葉でもないので、いやでもやっぱり、この字幕・・・

●最後に笑ったのが炭小屋で、隠れてる吉良の体に彼を探す浪士の槍が突き刺さるが、一緒に隠れてる用人が痛がってる吉良に「しーっ」と声を立てないようにうながすシーン。


というわけで、字幕と内容とに「おや」と思うところがちょいちょいあったのですが、なんでも本作は尾上松之助の一周忌(昭和2年)に『増補改訂忠臣蔵』と名を変えて上演しているそうであります(※註02)。その際大河内伝次郎の鍔屋宗伴とかが「増補」されたようで、「おや」と思う原因の手がかりなのかなと思っております。


大正時代最後で昭和ではじめての忠臣蔵。


※註01・・・本作は、ヒットしたいっぽうで「討ち入りまでの義士の苦心が不足してる」という批判もあったんで、人気急上昇の大河内傳次郎の鍔屋宗伴のエピソードを足して内容を整え、再ヒットを狙ったとされている。増補版では、講談とはまた違う、宗伴の協力ぶりが描かれていたようだ。(朝日ソノラマ「大河内傳次郎 人と作品 その魅力のすべて」)


※註02…大正元年にMパテー商会、横田商会、吉沢商会、福宝堂が合併して日活が設立されるがトップの意見が合わず、おりからの不景気風に暖簾をあおられて、しばしば前に撮った映画にちょっぴり新しく撮ったのをつないで上映してしのいだことがあったそうです。