時代劇特別企画 忠臣蔵

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2010年1月18日 (月) 03:34時点におけるKusuo (トーク | 投稿記録)による版

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作品概要
制作会社 TBS
公開年度 1990年
内蔵助役 ビートたけし
評価 5ツ星
役者絵:ビートたけし
役者絵:緒形 拳

たけしが主人公だがコメディではなく、新解釈の忠臣蔵。

「わたしは人を殺したことも無いし、殺されたくもないし、勇気も無い…」内蔵助は臆病な元禄サムライ。討ち入りをしたくなかった…

すべて定石通りに史実のエピソードは進むが、全部の視点やセリフが違う。同じ行動でも視点を変えることによってまったく違うものが見えてくるから面白いし、なにより意外とつじつまが合っている。


知るかぎり、城明け渡しの際に江戸本社から下見聞に来た荒木十郎右衛門らの前に大石内蔵助が土下座して浅野家再興を嘆願するシークエンスを表現してるドラマは何本かあるが、同じ土下座でもふつうは熱く必死に見えるのに対し、たけし版の土下座はひじょうに滑稽でなさけない。

また「元禄繚乱」などでは内蔵助は「何百石取りの連中が霞のように消えていったのに禄高の低いおまえたちががんばってる姿を見ると身が引きしまるぞ」などと浪士たちにエールを送るのに対して、たけしは最初の東下りで江戸のメンツを見て「なぁんだ。金の無いものばかりではないか…」という。浪士の原動力は忠誠心なのか食い詰めてのやけくそなのか、異様なリアリティで考えさせられる。


あと特徴的なのは後世にいろいろ研究されて明らかになった事実や、憶測されたあれこれがドラマ構成に大胆に取り入れられてること。ふつうは「脇差しは突くものです。それを殿はうちわのように振り回した。発狂したとしか思えない」なんて家老は言わない。討ち入りのときに屋根から降り損なって打撲した義士は存在したが、ふつう描かない。討ち入りを見物したともされている宝井其角を本当に見物させない。討ち入りは浪士のワンサイド・ゲームだったことも。劇中に犬のクソも踏むシーンなど出てこない。かっこ悪い史実はふつう映像化しないのに、このドラマはそれらをやっている。(のちにジェームス三木の「忠臣蔵 瑤泉院の陰謀」が近いことをやっている)

また、ふつう急進派だなんだとイデオロギーでばかり分けられるメンバーの派閥だが「たかが十石取りの分際で!」的に身分差別を口に出して言い争いをするシーンも、それらしい。


キャスティングも手堅い。お笑い芸人のたけしを実力派俳優たちがフォローするように仕事をしている様が、そのままたよりない内蔵助をバックアップするメンバーの演出とオーバーラップしている。

日本って、別にヘッドがしっかりしてなくてもまつり事がなんとかなっちゃう国だから、こういうアレンジも意外と納得がいっちゃう。ちなみに時の総理は海部俊樹。


もっとも特筆すべきは、ラストに赤穂城内で楽しく働く家臣達の回想が挿入されている点である。我々が知ってる、ふつう目にする赤穂城内は「大変」な時ばかりである。それがまるでこのラストは映画「火垂るの墓」の餓死した兄弟達の霊魂が仲良く楽しそうにしてるシーンのように「アレさえなければこの人達はこんなに楽しそうだったのに」という、やるせなさを感じる印象深いシーンになっている。


「邪道」「ナンセンス」という見方もできなくはないが、偉大なるワンパターンの映像版「忠臣蔵」に大胆なアプローチで一石を投じたエポックメイキング的作品。

この作品以降、怪作が妙に目につくのは単なる偶然ではなく、明らかに忠臣蔵の作り方に異様な化学反応を起こしているかに見える。 時代劇ぎらいの人にも、忠臣蔵に詳しい人にもオススメ。

セットはでかいが、もうひとつ安いかんじなのが残念。