牧野春齋

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牧野春齋【まきの しゅんさい】…吉良邸に勤務するいさましかった小坊主。年はまだ十二〜三才。


火鉢を浪士に投げつけて応戦する。

空色の紋付きに白博多の帯をしめ、タスキを十文字に綾なし、鉢巻をキリリと結んで裾を高くからげ、少脇差しを抜いて向かっていく。

牧野珍齋(まきの ちんさい)という名で紹介してる講談もある。

仮名手本にも出てくる意外なセミレギュラー。

「勇気の盛んなること これぞ家中第一」(証言:吉田忠左衛門


討ち入りのときに屋内で四十七士の行くてを阻んだが、あわてんぼうの武林が峰打ちにしようとしたが間違って刃のほうでポンとやってしまったので、首がポロリと落ちてしまった。武林は居合わせたゲンゴに「不憫だ」と怒られる(ゲンゴが遭遇して春齋が自分の息子と生き写しだったことから対応に往生してると磯貝が誤って首を落としてしまうパターンもある)。また袈裟懸けに斬られて唯七に「もろいやつ」と捨てセリフを吐かれるバージョン(講談)も。

映像では、うっかり武林が殺してしまうシークエンスは東宝「忠臣蔵 花の巻雪の巻」に出てくる。「女間者秘聞 赤穂浪士」ではふすまの影から火鉢を投げてくるので武林がふすまごと向こうを斬るとウ〜〜ンと小坊主が倒れてくる。「赤穂義士(大映)」では束でぶん殴られている。

最古の「忠臣蔵」では吉良邸で真っ先に四十七士を迎え撃つのがこの小坊主。真っ先ですよ。でもコレたぶん、映画が古すぎて、前がなくなっちゃってるんでしょう。ちなみに出てきたはいいが、オチがない。フィルムがとんじゃって。

やはりサイレントの「実録忠臣蔵」にも春齋のシーンがあるが、火鉢を投げたあと物陰から飛び出して、すぐ斬られてしまう小坊主のほかに、数フレームだけサブリミナルのように、ほんの一瞬「あっちいけ」的にあしらわれてる別の小坊主のカットもあった。鈴木松竹か?

井上ひさしの「イヌの仇討」では調子よく赤穂浪士と歩調を合わせては様子をうかがい、吉良たちが隠れている炭小屋まで行き来し情勢を伝える役をしている。最後は火鉢を抱えてではなく、柄杓を両手にかかげて浪士に立ち向かって死んでいく。

テレビ「必殺忠臣蔵」では、脚本家が名前の雰囲気が気に入ったのか、まったく同じ名前で「大奥の茶坊主上がりで、いまは仕事人の頭領として闇の世界を支配してる男」という、千坂兵部に雇われるれっきとしたおっさんで登場。刺客役で峯岸徹が演じた。


実在したそうで「討ち入りはワンサイドゲームで、惨劇である」という視点で描かれた漫画、杉浦日向子(江戸研究家)の「吉良供養」にも奮闘ぶりが描かれている。


後年までその勇敢さがたたえられた子供。


牧野春斎。


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